ビギナーへのプレゼント》 第4編 
 
 Hiromichi Fukuda, JA1IFB/KA1Z
 
     
 

世界的に有名なDXer、OH2BH、マーティ(Martii Laine) さんが1980年 5月、アフリカ・スーダンへ ST2FF/ST0のコールサインでDXペディションを行いました。このDX局と交信するため約1,000 人のJA局が参加したパイルアップの状況分析が今回のお話です。

ST2SS/ST0のQSLカード

筆者はマーティ さんからDXペディションの約束として、日本向けQSLカード2,500枚の返信作業を頼まれました。QSLの内容と封筒の宛先を1枚1枚照合しながら、誤配が起こらないよう確認し、航空便を都道府県別に仕分けました。みなさんの大事なカードですから慎重に返信手続をしましたが、かなり骨の折れる作業でした。

常日頃、DXペディションに対するパイルアップの構図を知りたいと考えていましたから、返信QSLを基に交信したJA局の内訳を今後の参考とするため調べて見ました。

これはアマチュア無線家にとって珠玉のご紹介です。写真は「助けて」と泣いている表情を捉えた涙を誘う衝撃的なQSLカードです。スーダンの窮状を果敢に世界へ訴え、救済を呼びかけたOH2BH、マーティさんの男伊達と社会貢献を高く評価せねばなりません。

アマチュア無線は多くの実験データを積み重ねた科学ですから、最新鋭50W機とバーチカル・アンテナを用いてDX局と交信可能なことが分かっています。しかし、実際のアマチュア・バンドで展開されているDX局との交信は、各々が電波法に定められた範囲内でDX局を捕まえる自由競争の形で行われています。最新鋭50W機で交信ができることを信じてDXに挑戦しても、運用経験、設備や設置場所などが自局より勝る競争相手がおり、いつもDX局と交信できる確証は残念ながらありません。

静かにダイヤルを回しつついち早くDX局のCQを見つけ交信することが「ヤッター」という達成感があり魅力的です。短期間で交信エンティティを増やすためにはDXペディション局を狙うしかなく、必然的にパイルアップへ参入することになります。トップ集団の局はDX局と交信を終えどんどんゴールインして行きます。しかし必死に呼べども50Wの第3集団へはなかなか順番が回ってきません。これではアマチュア無線を楽しむどころかイライラがつのってしまいます。

ST2FF/ST0
マーティさんが主催したST2FF/ST0の7日間にわたるDXペディションで979局のJAが21MHz CWとSSBモードにより交信しました。その内訳を次表に示します。

JA局による交信実績                                 周波数:21MHz帯
エリア
交信局数
交信比率(%)
100W超登録局数 *1
100W超局参加率(%)*2
1
424
43.3
2.027
20.9
2
115
11.7
678
17.0
3
92
9.4
1,268
7.3
4
39
4.0
513
7.6
5
36
3.7
434
8.3
6
65
6.6
628
10.4
7
81
8.3
727
11.1
8
59
6.0
580
10.1
9
31
3.2
294
10.5
0
37
3.8
335
11.0
合計
979
100.0
7,484
13.1

* 1 JARL NEWS1980年6月号に発表された空中線電力が100W超の免許を有するアマチュア無線局の局
   数。現在は2アマに空中線電力が200Wを指定されるため、登録100Wの局数は増えていると考えられ
    ます。
* 2 空中線電力100W超の局が交信競争に参加したとする推定値。

100W超のアマチュア無線局がJA1エリアに集中しており、彼らがDXペディションの交信総数の44%を占めています。日本全国で見ればDXCCを狙う意欲的な100W超のアマチュア無線局がDXパイルアップへ参加した平均参加率は13%止まりです。また交信総数の65%をJA1、JA2およびJA3エリア在住のJA達が取って行きます。これは注目すべき点で、この雷雲のように厚い層をどう切り崩すかが3アマの知恵の出しどころでしょう。

 
     
 
参加JA局の設置場所
ST2FF/ST0局と交信したJA局の設置場所を都道府県別に分類し、細かく整理しますと次のようになります。JAの数少ない移動局はQSLカードの宛先を所在地としました。

都道府県名
交信数
希少度
山梨
1
1000
高知
1
1000
佐賀
1
1000
鹿児島
1
1000
宮崎
2
500
岡山
3
333
島根
3
333
沖縄
3
333
和歌山
4
250
鳥取
4
250
広島
5
200
香川
5
200
栃木
6
167
奈良
6
167
徳島
8
125
大分
8
125
富山
8
125
熊本
9
111
青森
9
111
宮城
10
100
福島
10
100
石川
11
91
山口
12
83
長崎
12
83
都道府県名
交信数
希少度
福井
12
83
滋賀
14
71
秋田
14
71
岩手
16
63
山形
16
63
三重
17
56
新潟
17
56
大阪
18
56
長野
20
50
京都
22
46
愛媛
22
46
群馬
23
42
岐阜
27
35
兵庫
28
35
福岡
29
33
静岡
30
32
茨城
31
31
埼玉
36
27
愛知
41
24
千葉
48
20
北海道
59
17
神奈川
74
13
東京
205
5
合計
979
-
* 希少度(DX局から見て交信しにくい県) = 979/都道府県の各交信数

この表から明らかなように、東京都、神奈川県が他を圧倒し、北海道、千葉県と愛知県勢が活躍している反面、南アルプスと八ヶ岳連峰に阻まれた山梨県勢が苦戦を強いられています。アメリカの有名なアワード・ハンターK1BV局は都道府県の内、山梨県、高知県、佐賀県が、ヨーロッパのG3GREI3VQD局は3県に加え和歌山県、島根県と鳥取県に希少価値を感じているようです。同じようにアメリカの50州でも、バーモント州、デラウエア州、ノースダコタ州およびワイオミング州が交信しにくい地区として日本では伝説のように囁かれています。
 
100W超のアマチュア無線局の交信状況
ST2FF/ST0と交信したJA局のエリア別の交信率を表に掲げましたが、分かりやすくグラフ化して見ました。

 
このグラフは納まりを考え縦軸を20%台で切っていますので、JA1エリアの交信率はグラフのはるか上に位置します。 運用技術と高出力の無線設備を整備しDXハンティングに意欲的なアマチュア無線家が順当にDX局と交信しています。その局数と交信率はほぼ比例していますね。これらのデータから、受信機のダイヤル面では読み取れない、DX局に対するパイルアップの内訳が少し理解頂けたことと思います。またアマチュア無線局数が増加した現在もパイルアップの構図は変わっていないと推定しています。
 
電波伝搬予想 
ST2FF/ST0のDXペディションが行われていたその期間、JARL NEWSの報じる電波伝搬予想は如何であったか、電離層伝播で苦労するアマチュア無線局にとって興味があるところであろう。JA1CO、官宮夫さんによる21MHzの伝搬予想を参考資料として再掲載します。
 
アフリカ方面への電波伝搬予想                         周波数:21MHz
JARL NEWS 1980年 5月号より抜粋、英訳して引用
Northern=アフリカ北部方面、Western=西部方面、Eastern=東部方面、Southern=南部方面
 
アフリカ北東方面へは日本時間の夜から翌朝にかけ、21MHz帯が高い確率で開けると予測する電波伝搬予想がST2FF/ST0の交信実績から検証されました。21MHz以外のバンドも予測が的中しており、この伝搬予想がDX通信を行う場合のヒントとして誠に重宝です。残念ながらJARL NEWSは情報豊かな伝搬予想の掲載を中断しましたから、CQ Ham Radio誌の電波伝搬予想を参考にすることになりましょう。
 
DXハンティングを楽しむために

一般にDXペディションは珍しい地域から限られた時間内で1局でも多く交信し、世界のアマアチュア無線家へニューエンティティを贈ることが楽しみのひとつとして運用されます。そのため運用に忙しく、運用場所、参加オペレーター、期間、運用バンドおよび交信数、エンティティの数という結果発表のみでその他の詳しいことは通常紹介されません。

DXハンティングを楽しむためには独自にパイルアップの構図を研究、分析して、効果的なDXに対する運用を目指すことが必要です。上のデーターは初めてアマチュア無線界へ発表される分析結果の一例と思いますが、紹介した図表中に、DXハンティングを楽しむための、いくつかの参考となるヒントが隠されています。 DXハンティングを長く楽しむためにご家族の理解と調和が一番大切です、心に留めておいてください。筆者が心がけた事柄を紹介しましょう。

 
【アマチュア無線ヒント集
無線台
無線機に合った、長時間の運用で疲れない無線台を厚み12mmの合板で自する。無線機へ手が届くように、機器の高低とパネル面の傾斜を調整する
無線機
@コンテストとロギングソフトを装備したパソコンを組み合わせ高機能化す る 
A将来2系列の無線設備を頭に入れ無線機の選択をしておく
設置場所
故郷の実家か希少価値のある場所へ移動運用することを検討する
DX情報
W1AW General Bulletins for 2008 および NG3K Amateur Radio Contest/DXを参照する
運用面
@思いやりの心、自局のコールに誇りと遵法精神を持つ 
A電波を出す前に良くDX局の信号を聞く、パイルアップではトップ集団の方、「お先にどうぞ」という姿勢で臨む、遅くとも交信できれば「ラッキー」と鷹揚に構える 
BDX局の指示を良く守り、情報アナウンスを注意して聞く 
F災害、緊急通信を優先する 
G 科学的な遊びと考え無理をせず交信を楽しむ
実用面
@CWはVE3NEA,Morse Runnerで実戦的な受信訓練をし、毎分110文字の電信によるビーコン標識電波(脚注)の受信能力を養う 
A電信と英語の模範文を作成し、交信時に棒読みでも良いから場慣れをすることと同時に実際の英語交信を録音し音感を覚える
心構え
3アマは通過点と心得え2アマ、1アマ獲得を目指し成功するまで挑戦する
 
筆者は希少度1000の山梨県へ設置場所を三度調べに行きました。格好な場所には残念ながら個人の天文台や観測所があり、特別な配慮がいりそうです。アメリカではバーモント州・ホワイト・リバー・ジャンクションのアムトラック駅とホテルだけの、小さな村からニューハンプシャー州境の川へ向かう途中2km地点が全方向に開けており、雪深いものの、交信困難なバーモント州で運用する有力な候補地と思われました。
 
おわりに
アマチュア無線局を運用する上で色々な問題に出会います。そのつど、解決策を考え計画を実行し、その結果を見る。駄目ならまた考える。研究する時間は充分あります。みなさん、少しずつ知恵を出し合い「サイクル24」を楽しみませんか。成功をお祈りします。      (おわり)
 
[脚注、IBPビーコン]
IARU(International Amateur Radio Union)と NCDXF(Northen California DX Foundation) はアマチュアバンドの電波伝搬状況を国際的な規模で研究するためにIBPプロジェクト(International Beacon Project)を16ヶ国の関連団体と共同して行っています。
 
ビーコン局 と送信時間                             ビーコン周波数:21.150MHz
コール
設置場所
送信時間分:秒
運用者
備考
4U1UN
United nation
OO:2O
UNRC
OFF 4
VE8AT
Canada
OO:3O
RAC/NARC
OK 1
W6WX
United States
OO:4O
NCDXF
OK 3
KH6WO
Hawaii
OO:5O
KH6BYU
OK
ZL6B
New Zealand
O1:OO
NZART
OK
VK6RBP
Australia
O1:1O
WIA
OK
JA2IGY
Japan
O1:2O
JARL
OK
RR9O
Russia
O1:3O
SRR
OK
VR2B
Hong Kong
O1:4O
HARTS
OK
4S7B
Sri Lanka
O1:5O
RSSL
OFF 4
ZS6DN
South Africa
O2:OO
ZS6DN
OFF 5
5Z4B
Kenya
O2:1O
ARSK
OK 1
4X6TU
Israel
O2:2O
IARC
OK
OH2B
Finland
O2:3O
SRRM
OK
CS3B
Madeira
O2:4O
ARRM
OK
LU4AA
Argentina
O2:5O
RCA
OFF 2
OA4B
Peru
OO:OO
RCP
OK
YV5B
Venezuela
OO:1O
RCV
OK
1. 設置場所の地区事情により間歇運用  2. 新しい設置場所へ移設中  3. 送信機は14MHz専用で、目下修理中 
4. 詳細不明で休止中  5.設備の修理中
 

ビーコン標識電波は昼夜を問わず3分毎に14MHz、18MHz、21.150MHzおよび24MHz、28MHzの各周波数で送信され、毎分110文字の100W電信でコールサインと1長点、引続き1秒ずつ10W、1Wと0.1Wと送信電力を落としながら長点が送信されています。丁度3分で18局を回りますから、短時間で世界のアマチュア・バンドの電波伝搬状況が調べられるわけです。

アマチュア無線局を運用する前に21.150MHzのビーコン標識電波を聞き、アマチュア局が入感していなくとも、ビーコン標識電波が聞こえれば、そのコールサインが示す地域と日本間で21MHzの伝搬経路が開けていることがわかります。月間の長期予想は前に紹介した電波伝搬予想を、また日々の伝搬の確認にはビーコン標識電波を利用して、DXハンティングを効率的に楽しまれるようお勧めします。
 
 
《筆者紹介》
福田 廣道(ふくだ・ひろみち) 
JA1IFB/KA1Z

1936年生、大阪府出身。化学会社に在職中は合成樹脂の事業に従事。 第1級アマチュア無線技士、JARL監視員及び中央選挙管理委員、技術相談室担当、ARRL/VEC VE
 
de JA1IFB/KA1Z

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