ビギナーへのプレゼント》 第3編
 Hiromichi Fukuda, JA1IFB/KA1Z
 
     
 

[Mr. Mistrain]
ヨーロッパでは、私自身お気に入りの「Mr. Mistrain」(方向音痴さん)というニックネームで呼ばれていました。国際列車で、何度か行先を間違えたことに原因があるらしい。今回もローカル列車で寝過ごてしまいスイスのベルンに迷い込みました。計らずとも「フォックス・ハンティング」へ招待され、「世界でひとつのコールサインを持ったアマチュア無線家ならでは」の楽しい数時間をスイスの首都、ベルンのアマチュア無線仲間と過ごしたお話を紹介しましょう。

[スイスの首都ベルンへ]

その日、チューリッヒから空路ミラノへ行く予定でした。空港のフライト・インフォーメションを見てビックリ、スイス航空(Swissair)ミラノ便は欠航になっているではありませんか。スイス航空の係員はリナーテ空港が濃霧で閉鎖されている、「急ぐなら夜行列車がある」と、涼しい顔で取り付く島がありません。

交渉の末、ミラノへの電話代と、最寄駅までのタクシー代をもらい、夜行列車でミラノへ下ることに決めました。 最寄駅のクロテンからチューリッヒ駅までは約25分の距離にありました。チューリッヒで国際列車に乗り換えると明朝ミラノへ到着するであろう、空港で引き取った重たい旅行カバンを蹴飛ばしながら列車に乗り込みました。30日間の旅行疲れで居眠りしたのでしょう。

近くで「カチカチ」と何かを叩く音に眼をさまし、辺りをきょろきょろ見渡すと、目の前に緑色の毛布のような外套を着た車掌が笑いながらカンテラを叩いています。20人位いた乗客はもう誰もいません。降ろされたのはスイスの首都ベルンでした。チューリッヒからの追加料金40スイス・フランを取られ、事情を話すと親切な車掌さんの紹介で駅前のホテルに泊まる羽目になりました。

中央上がチューリッヒ、首都ベルンは左側、ヨーロッパのHAM RADIO(ハムショー)の開催地、フリードリッヒハーフェンは右上(E54の辺り)

 
     
 
[シュバイツァーホフ・ベルンにて]
シュバイツァーホフのキーホルダー
親切な車掌さんに案内されたホテルはベルンでも由緒ある4星ホテル「シュバイツァーホフ・ベルン」でした。部屋で冷静になるにつれて自分の緊張感のなさが腹立たしく、身の振り方を考えながらシャワーを浴びていました。ふと、以前HB9TT夫妻と交信した時に『もしベルンにくる機会があれば電話局に連絡しなさい』ということを思い出して、どうしたら良いものかと相談するためフロントへ下りて行きました。

すでに夜10時を回っていました。フロントは鼻眼鏡をかけたご老体に交代しておりました。しかし、彼はこちらの話を直ぐ理解してどこかへ電話をかけ、相手から「今は誰もいないが、1時間以内にホテルへ連絡をしてくる」との約束をとってくれました。部屋で東京への電報を書いていると、HB9ACV、ハンスさんから電話が入りました。

「やあ今晩は、私はHB9ACV、ハンスといいます、日本のアマチュア無線家ですか」
「今晩は、電話ありがとう、JA1IFB、名前はコードです」
「ホテルではHB9TTの知人と聞いているが、フレッドが何処かでお世話になったようだね、お礼をいいます。ところでベルンは観光か仕事のどちらですか」
「仕事です、ミラノへ行く途中誤ってベルンへやってきました」
「残念ながらフレッド夫妻は留守だが、あなたの時間が許せば、お礼に仲間と明日あなたをベルンのフォックス・ハンティングへ招待しますが」
「FBですね、お願いします」
「身長と体重、スリムか」
「175cm、65kg スリムである」
「了解、明日の朝 8時 にホテルへ迎えに行きます、お休み」
という具合でテキパキと観光計画が決まりました。
 
[フォックス・ハンティング]
当日の朝ハンスさんと息子さんが手にブルーのヤッケ、セーターと茶色のスラックスを抱えホテルへ現れました。直ぐ着替えるようにといわれ、少し大きめのセーターとスラックスを着込み、HB9TT夫妻のお仲間が集まるフォックス・ハンティングへ出発しました。
 
フレッドさんのQSLカード
スイスを代表するアニーさんのカード
YL-DXCC、WAC獲得にはフレッドご夫妻のお世話になった方も多いことでしょう。
 
ホテル・シュバイツァーホフの玄関でハンスさんと息子さんの記念撮影を済ませ、モービル・アンテナを取り付けたセダンに乗り込みました。座席に70cm角位の地図と定規、コンパスが揃えてあり、初めてのフォックス・ハンティングへ参加です。 息子さんの運転する車が猛スピードで田舎道を走り見通しの効く場所へ、9時からフォックス2局がゆっくりとした電信を打ち始めました。写真のように方向探知し、再び猛スピードで30分ほど移動した地点で再び測定しました。車にもどり地図に方向を書き込みながら作戦会議です。2局のフォックスは随分離れた森の中にいます。
 
HB9ACVと息子さん 方向探知機でフォックスはどこに?
 
フォックスHB9ADNのチェック

日本からの訪問客JA1IFBが突然ベルンへきたので、ミーティングを開いたというニュースが3.5MHzの電信でフォックスが流していました。それを聞きながら、息子さんがベルンの郊外の観光案内を兼ねてゆるゆるとドライブします。 しばらくして、今度は通常の交信になりました。

「日本人の名前は?」
「コード」
「使用リグは?」
「自作のSSB無線機、アンテナはグランド・プレーン」
「リニアー・アンプを使っている?」
「Swan 1500Zを持っている」
「ブラック・ボックスか」
「そうだ」
「ビジネスは?」
「プラスチックのセールスマンです」
「OK 3時間後にレストランで会おう」

というようなことで、ハンスさんが膝打ちの電信で返事をしてくれました。 さて最初のフォックス局を森の中で見つけました。朝の挨拶を済ませ走行距離のチェック、通過10番目のワッペンをもらう。今日はそんなに多くの仲間が参加しているの?国際迷子がベルンで受けるスイスの思わぬご厚意に大感激です。

十年来の知己のように歓迎してくれるのも、
世界でひとつのコールサイン」のお陰と嬉しくなりました。   

 
[レストランにて]
朝からベルンの郊外を約 4時間かけ見物したでしょう、 1時過ぎに時計台の近くのレストランへ到着。すでにレストランの片隅でカードを胸につけたハム達が、シュニッツェル(フランス風とんかつみたいなもの)をほおばり盛んにビールを飲んでいました。テーブルには料理と一緒にジャンクも置いてあり、その風景は日本のミーティングと何ら変わりはありません。会費は15フランでした。 壁には世話役が作った"Willkommen JA1IFB"(ようこそ)のポスターが貼ってあり、また感激しました。勧められて自己紹介を行い、席につきました。
 
ミーティングのあったレストラン HB9TT、HB9YLの仲間達のサイン
 

ベルンの人たちの話題はもっぱら、2 VFO搭載のSignal One CX-7、当時3,000ドル? Drake TR-6 それにSideband Engineers社のモービルに適したSBE-34に集中していました。SBE-34について知識がないため、興味がわき、わざわざ一人のハムが搭載している無線機を見に駐車場へ、黒と緑色に配色されたダイヤルが美しく、手頃なトランシーバーでした。

また 4Aと 7Aのヒューズが貴重品という笑えぬ内緒話も漏れてきました。みなさんは平均40歳代と推定され、英語、ドイツ語とフランス語を巧みに操る裕福なハム仲間に見えました。 チューリッヒへ向かう列車の発車時間が迫っている。終始和やかだったミーティングがお開きになりました。ベルンでお世話になった方々にお礼の握手をしながら、日本の寄せ書きに当たる記念のサインを頂きました。 『また寝過ごしたらベルンへおいでよ』と冷かされる声を背に受けながら、楽しかったスイスの首都ベルンを後にしました。                  (おわり)

 

ご参考》 Mr. Mistrain・・・辞書にはありませんが「方向音痴さん」 と訳しました。欧米では、列車のプラット・ホームは発車10分前に決まります。そのため時々乗り遅れたり、方向違いの列車に乗ったことから、このニックネームをもらいました。 発音の響きが良いので、けなされているのに気に入っています。

de JA1IFB/KA1Z

QTC-JAPAN.COM 2008.01.16
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