HB0(リヒテンシュタイン公国)に行ってモービルでQRVした際、電源電圧の降下により送信出力が最大25Wにとどまったために、その原因を究明し対策を施しました。この記録はその顛末です。 de DF2CW
 
 
DF2CWのモービルシャック by DF2CW/JA7HM 追加情報
 
 Kunihiko IKI DF2CW/JA7HM
 
   
 


■ はじめに

ドイツでは窮地に陥ったときの解決策を見つけることを、「Not macht erfinderlisch」 といいます。日本語にすれば「必要は発明の母」とでもなりましょうか。ここで私が窮地に陥った話を書いて皆さんの参考にさせていただきます。

実は、私は歳も取ったし目の老化も進んだので、自作はしないことにして無線機はできたものを、それに付属するものはできるだけ完成品で賄うと自分に言い聞かせていました。そして固定局と移動局の2系統を持ち、状況に応じて使い分けができるように準備をしたのです。そのうちの移動局、即ちモビール局はいろいろな条件を設定して2011年7月にQTC-Japanに 「DF2CWのモービルシャック」 として発表しました。

これは私には最適なモービル局の構成だと自負していたのです。

モービル点から見た国境線で下の流れはライン川、その向こうはスイス


私は6月にFriedrichshafen で開催されたドイツのHAM-Radioを機会に、ここからさほど遠くないHB0に行ってモービルでQRVしようと計画して、全ての機器を車に詰め込み出かけました。 この時期のドイツの陽気は穏やかで、夕立が来る程度ですから休暇を過ごすには最適です。

移動地はリヒテンシュタインのガフライ(Gaflei)


HB0に出かける朝、地図を見てどこでQRVするか友人のアドバイスにしたがって決めました。彼は私の所属するクラブのメンバーでたびたびHB0に行っているからです。リヒテンシュタインという国はOE(オーストリア)とHB9(スイス)にはさまれた小国です。詳細は福田OM(JA1IFBKA1Z)が QTC-JapanのOverseas News に記述していますのでそれをご参照ください。

地形的にはアルプス山系の北斜面にあり、北の方向に開けた環境にあります。ですから私が選んだところも、海抜1500m程の高さでしたが、結局は南に高い山があって北方だけが無線には好条件でした。そこから見るライン河はリヒテンシュタインとスイスの国境になっていて素晴らしい眺望でした。

公国:「公(duke)」の称号を持つ君主が統治する小国。リヒテンシュタインやモナコ、ルクセンブルクなど。

 
     
     
 
 
送信パワーが25Wに減衰する
 

私はここからモービルでQRVを始めたのです。天気も良かったので日陰に駐車し、充電用のソーラーパネルは太陽光を充分に受けられるところに置き、20mバンドでCQを出しました。しかしこの時私のモービル機IC-7000がフルパワーを出してくれないことに気がつきました。パワーメータは25%くらいしか示していませんでした。アンテナ系統は充分にマッチングが取れていましたので25W位の出力と想定されました。

 
リアフェンダーに付けたモービルアンテナ 運用中のDF2CW。無線機の下にあるのが バッテリーの入った木製筐体
 

それでもG(英国)とON(ベルギー)とQSO出来てお互いにRS59のレポート交換ができました。こちらはモービル用のホイップアンテナですから地の利が功を奏したもののようです。しかし、送信パワーが25Wに減衰する理由がとっさには理解できませんでした。宿の戻ってからバッテリーに取り付けた4個の計器を見ていたら、バッテリーの供給電圧が送信ボタンを押してマイクロフォンに向かって「アー」と言っているとき約10Aの電流が流れては約1Vの電圧降下が起ります。これは正しくバッテリー内の内部抵抗が約0.1オームあることになります。
 
ということは私の理解が正しければIcomのモービル機IC-7000は動作電圧が急激に変化することによる制御回路が働き送信パワーを落としているものと想像されます。それを証明するのに、230VのAC電源を接続して動作をさせると、動作電圧の変化がないため正に100%(約100W)のパワーを引き出すことが出来たのです。
 
 
解決策を考える
 
ここで冒頭に書いた「Not macht erfinderlisch」 です。解決策を考えました。要はバッテリー電圧の変化があってもそれを受けないようにすれば良いのです。自作は出来るだけしないことにしていますから、いろいろ考えた結果DC-ACコンバータを使うことにしました。即ちバッテリーの電圧DC13VをAC230Vに変換するものです。
 
ここで注意しなければならないのは、AC230Vを供給するのにバッテリー電圧の変化に充分余裕がなければなりません。少なくとも11Vから14Vなくてはなりません。それとこのコンバーターが動作することによって雑音源になっては困ります。安物のコンバーターは50サイクルといっても矩形波を出すものがあって、これでは波形が変化するたびに雑音が発生することは容易に想像されます。懐具合を優先させると、安物買いの銭失いになりかねませんので、少し高価でしたがサイン波の出るコンバーターを入手しました。その型名はMSP352といってドイツのWAECO社製です。(www.dometic-waeco.com
 
【MSP352の主な規格】を書いて見ますと:
 
・入力DC12V出力でAC230V/50サイクル 波形はサインウェーブ
・入力電圧の許容偏差が11-15V、
・平均電力 350W 
・ピーク電力700W 効率90%以上 
 
 
というものです。
 
これは良い買い物でした。早速Foto1のようにバッテリー筐体の上板に取り付け接続して動作をさせたら確かに入力電出の変化に対して安定にAC230Vを供給してくれました。IC-7000のパワー計も100%を示していました。理論的には私の考えは正しかったようです。しかし、またまた別の問題が発生したのです。
 
FOTO1 ドイツのWAECO社製MSP352 DC-ACコンバーター
 
というのはDC-ACコンバーターをONにすれば、それが動作をするための動作電流が無負荷状態で1.2A程度常時流れること、IC-7000はAC電源(DAIWA SS330W スイッチングパワーサプライ)を使うためそこにも常時電流が流れてしまうのです。IC-7000を直接バッテリーに接続するだけでは、このような余計な電流消費はなかったのです。
 
このDC-ACコンバータを使うことにより100%のパワーを引き出すことが出来るようになったのですが、そのための余分に電流も良く流れるようになりました。そして今度はこの余計な電流消費が加算されて電圧降下が大きくなり、DC-ACコンバータの入力電圧が規格の11Vより低くなることがわかりました。11V以下になる度にピピッ、ピピッと警告音を発生するのです。さてどうしましょうか。
 
 
バッテリーの電圧を保つために
 
さてここでまた「Not macht erfinderlisch」 です。バッテリーの電圧が低下するのは負荷が重くなったとき、即ち、SSBモードで、マイクロフォンに向かって『アー』といっているときですから、そのピークの負荷の時間は短いはずです。ということは、その短時間帯にあたかもバッテリー電圧が保たれているようにしてやればよいわけです。それを解決する方法は2つあることに気がつきました。
 
1) バッテリーをパラレルに接続して電流容量を大きくしてやれば、解決するでしょう。 しかしこれには私のような老体には非情で重量が大きくなるということの他に、二つのバッテリーの内部抵抗が異なっている場合は自己放電の原因になり、使っていないのに電池が空ということになりかねません。ですからこの方法は適していません。
 
2) そこで私が考えた2つ目の方法とは、容量大きいコンデンサーをバッテリーに並列に接続することです。これなら負荷に大きな電流が流れたときに起きる電圧降下をある程度防ぐことが出来るはずです。入手可能である程度容量の大きい電解コンデンサーを探さなければなりません。ハムの仲間でも、オーディオをやっている人ならこのようなコンデンサーを持っているでしょうが、無線だけのハムが使うことはほとんどどありません。ということは知り合いのハムを頼って入手することは不可能です。
 
ドイツのパーツ屋は東京の秋葉原のようにいつでもすぐに希望するものが買えるなどという便利さはありませんから、逆にパーツ屋で何がある、と聞いて適当なものを求めるということになってしまいます。パーツ屋の店員に聞いたら、そんな大きなコンデンサーは売れないから置いてないといいながらも47000uF/40Vを見つけて出してきました。私達はアマチュアですから、何でもOKとばかりまず一つ買ってその効果を試してみました。
 
抜群です。マイクロフォンにむかって『アー』といったら100%のパワーが出てきました。しかし、それでもパワーのピークで25A以上の電流が流れてしまい、バッテリー電圧が11V以下になってしまいます。その度にDC-ACコンバーターからはピピッ、ピピッの警告音で耳障りです。そこで同じコンデンサーをもう一つ求めてパラにして容量を2倍にしました。94000uFです。もっと安定してきました。
 
Foto2 電解コンデンサーを計器板の裏側に取り付けた
 
IC-7000は電源につないだと同じようにバッテリー+DC-ACコンバーターでも最高の状態で動作をすることが確認できました。Foto2はこの電解コンデンサーを計器板の裏側に取り付けたもので、Foto3は計器板を正常に組み込んだ様子です。 今では途中で投げ出さなくって良かったと思っています。
 
Foto3 計器板を正常に組み込んだ様子
 
 
おしまいに
 
筆者:DF2CW/JA7HM 壱岐さん
(東京・上野で07年10月撮影)
モービル運用の場合は普通なら車のバッテリーを使いますので私が経験したような問題は発生しないでしょう。しかし私の場合は車のバッテリーに負荷をかけたくないという最初からの条件があったので、このような余計な問題を抱えることになってしまいました。

頭の固くなったこの歳で「Not macht erfinderlisch」 を実行した例です。 DC-ACコンバーターもスイッチング電源も雑音を発生しないで動作をしてくれたことは問題の軽減に役立ったようです。

どなたかの参考になるのではないかと思いを書いてみました。ご意見をお聞かせいただければうれしく思います。
 
 
≪追加情報

MFJ-4416B
記事の掲載直後、友人からコメントが寄せられました。それは入力電圧9〜13.8Vで出力電圧が13.8V(25A)を維持する、DC-DCコンバーターでした。

コメントは次のような内容です。

『 車載トランシーバーの送信出力は電源電圧に左右されますので、アメリカのMFJ社で売っている電圧ブースター MFJ-4416Bを入手して好結果を得ています。』

というものでした。

BATTERY VOLTAGE BOOSTER,12V】 
    MFJ-4416B  $149.95

入力電圧:9〜13.8V
出力電圧:13.8V 出力電流:25A限度

MFJ WEBサイト

MFJ-4416Bのマニュアルはこちら ⇒ MFJ-4416のINSTRUCTION MANUAL

 
de DF2CW/JA7HM
 

QTC-JAPAN.COM 2012.08.20
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