| SteppIRに決定 | SteppIRの到着 | 組立てと問題 | まだ気に入らない | 良く飛ぶか | 問題はあるか |
     
 
90年代から私達のグループJAIG(Japanese radio Amature In Germany) は、五十嵐さん(JA1DKN)のコントロールでネット交信をしています。オフィシャルなネット周波数は21.360MHzで08:00UTCからですが、コンディションによっては交信に至らないこともありますので、代替え周波数を14.310MHz、(JA側にQRMがあるので実際には14.304MHz付近)を指定してありました。しかし昨今のコンディションでは15mバンドでの交信がほとんど不可能ですので、20mバンドを使っているのが実情です。

しかし、これらの周波数では、週末には多くのコンテストが計画されていて、仮にコンディションが良かったとしても、これらの混信で、これまた交信不能に陥ることがしばしばです。そこで提案されたのが、コンテストが行われないWARCバンドの内18MHz帯をもう一つの代替周波数として考えられ、18.130MHzをそれに設定されました。しかしここで問題があります。それは、全てのJAIGネット参加者がこの18MHz帯用アンテナを持っていないと言うことです。私とてその例外に漏れず、しばらくはワッチだけに専念しなければなりませんでした。 de DF2CW/JA7HM 


DF2CW 壱岐さんの新しいシャック 最上段がOriginal Steppir Controller、その下がSPE EXPERT 1K-FA、IC-7600


それと前後して私達はJAからTさんの訪問を受けました。そしてアンテナ談義に花が咲いたのは言うまでもありません。私はこれまでミニマルチ社製の2エレメント3バンドHB32SXを使っていて、その性能が良いので大変気に入っていました。しかし、これはWARCバンドでは全く使うことが出来ません。ここでTさんは即座に「それなら SteppIR を使いなさい」と薦めてくれたのでした。

彼曰く、ブームの長さはミニマルチの2エレメントとほとんど変わらず、14MHzから50MHzまでの全てのハムバンドに同調が取れるという長所を強調していたのでした。 私のSteppIRについての知識は雑誌の広告、インターネットWebサイト、それに2009年のHAM Radioで見ている程度でしたが、この問題が急に私に襲い掛かってくるとは全く予期していませんでした。この時から私は2エレメント14-50MHz用SteppIRとの格闘が始まったのです。

インターネットでの調べ物は楽ですね。昔だったらいろいろな本を買ってきては時間をかけて読んでいましたが、今では読みたいものを即座に得ることが出来るのですから便利になりました。そこで雑誌の広告を頼りに調べましたら、ドイツでは2つの会社が輸入代理店として名乗りを上げていました。しかし、どちらも申し合わせたように高価で私の手の届くところにはありませんでした。そこでケルンにいる友人に事情を話したら、Gにある彼の友人の会社から求めては、との意見でした。EU内の物流には関税がかかりませんので、長距離であることによる運賃の差額は別として、どの国からでも気軽に購入することが出来ます。

Gにあるこの会社へ問い合わせましたらドイツで買う価格より安いことがわかりましたので、早速発注しました。アンテナのタイプは 2E型 でした。私は普通このようなもの買うときは熟慮して時間をかけるのですが、今回のSteppIRについては、Tさんの薦めがあってから入手するまでの速さは例外で、アッと言う間に決まってしまいました。性能に魅力を感じたのです。

 
     
 
野暮用で家を不在にしていた私は、XYLからの電話でSteppIRが到着したことを知りました。JA製のアンテナがコンパクトに梱包されていることを知っている私には、到着したダンボール箱が巨大であることに驚かされました。(Foto1) その次は重量です。アンテナ事体が14kgもありますので、梱包されたそれは少なく見ても16kgはあったでしょう。
 
Foto1 開梱を開けた状態
 
開梱しました。2エレメントですから、4本のグラスファイバー製の大きな釣竿(?)が入っていました。これは4段のテレスコープ型になっていて、引き出すと一本の長さが5m以上にもなります。庭の芝生の上に並べて置いて見ました。(Foto2) その他に5個のダンボール箱と共にブーム用アルミパイプが梱包されていました。5個のダンボール箱の内、最初の開いたものは何も入っていません。
 
Foto2 テレスコープで4段になっていて引き出した状態です長いですね
 
2つ目も空でした。3つ目には小物類とコントローラーなど、(Foto3) そして後の2つは、それぞれEHUと呼ばれるステップモータの入っているこのアンテナシステムの心臓部でした。最初の二つは、アメリカ人の合理性から生まれた梱包手法であることに気がついたのはそれ程時間がかかりませんでした。アメリカの空気が送られてきた感じです。これは真新しいダンボール箱ですので、小物類整理用に持って来いの大きさでしたので、ちょっと得をしたような気持ちでした。
 
Foto3 こんなものが入っていました
 
このアンテナの組み立てについては、インターネット上で多くの報告をありますので、私が改めて書く必要は無いでしょう。ここでは、このアンテナを上げるまでに発生した一つの問題を挙げたいと思います。しかしその前に、私のアンテナ・システムを紹介しなければなりません。
 
私はミュンヘン市内の住宅街に住んでいますので、短波用の大きなアンテナを屋根の上に取り付けると目立ってしまい隣近所から文句が出るかも知れません。美観にうるさいドイツ人ですから、この点は注意をする必要があります。アマチュア無線を太く短く楽しむののなら話は別ですが、私は、細くてもよいから長く楽しみたいので、この大型の短波アンテナは屋根の上に上げないことにしました。
 
家の庭には、ドイツによくある、絨毯を掃除する時、その絨毯を架ける鉄の棒があります。2本ある鉄棒のうち一つを使って、手動式伸縮ポールを沿わせて取り付け運用する時だけアンテナを引き上げ、QSOが終ったらまた引き下げると言うものです。「そんな馬鹿なことをやっているのか、」と言われるのは承知しています。しかし、これはDX、例えばJAとQSOをしたい、JAIGネットにチェックインしたいというときに使うもので、普段のワッチは室内に置いてあるマグネチックループアンテナで行うことが出来ます。と言うことは、2系列の無線機を異なった部屋から運用できるということです。
Foto4 アンテナを下げた時の状態
 
もう少し詳細に書きますとDX用のリグは地下室にあり、マグネチック・ループアンテナに接続されているものはパソコンが置いてある3階の屋根裏の部屋です。話が横道にそれました。 Foto4はマストを下げた状態を撮影したものです。 Foto5は引き上げたSteppIR 2Eです。さて発生した問題と言うのは、「重量」です。先にそれは14kgあると書きましたが、これは自重で、それに同軸ケーブルや制御用ケーブルは付いていますから、実際にはもっともっと重くなります。ミニマルチの2エレメントを使ったいた時のように、スルスルと上がると思いきや、1mほど引き出すのがやっとでした。
 
Foto5 アンテナを上げた時の給電部
 
どのようにしてマストを引き上げるかが大きな問題、そしてその解決策は このアンテナは14kgもあると書きました。引き上げると書きましたが、押し上げる言った方が良いかも知れません。凡その見当ですが、組み上がったアンテナが平地で片手で持てる程度なら問題ないが、両手を使って持ち上げる程の重量があるアンテナは大変だと言えそうです。SteppIRアンテナがマストに取り付けられました。しかしどうしましょう。しばし頭を抱えてしまいました。重くて引き出せないのです。
 
友人曰く、電動化しろとか、手動でも滑車をつけろとか。何れも「言うは易くなすに難し」です。現在の私には、実用化には遠い話です。そこで引き出しやすいようにするために考え付いたのが、「握り横棒」をつけてはとのアイデアです。善は急げ、で早速その横棒を取り付けるための金具を注文しました。そしてその横棒は?以前使っていた直径25mmアルミ・エレメントを切断してとりつけました。「握り横棒」は裸では握りにくいので、絶縁テープでも巻こうかと考えていましたが、脇で見ていたXYLが、自転車に使うゴムの握りでは、とのアドバイスがあり早速自転車で自転車屋に走りました。
 
普段はほとんど縁の無い自転車屋ですが、行って見ると最近の自転車の多様化で修理部品の多さに驚かされ、一時選択に困りましたが、結局たどり着いたのはレース用自転車の湾曲したハンドルの握りに使う、長いゴムのチューブでした。適当な長さに切断して取り付けました。格好もいいし、見栄えもいい、それに確かにマスト引き上げが楽になりました。自転車屋のおじさん曰く、握りを差し込む時、先ずアルミパイプに揮発油を塗り、ゴムチューブを押し込むと取り付け易いよ、との助言は大変参考になりました。揮発油?なるほどすぐに蒸発して影響が残らないものね。出来上がったものが Foto4 に示しました。アンテナを上げた状態は Foto5 です。そして握り部分を背面から見たのが Foto6 です。
 
Foto6 握り部分を反対側から見た写真
友人達がわいわい言って、電動化だとか滑車をつけろと言われていたのが気になり始めました。私も歳ですから、いつかは脚立に上がってマストを引き上げることが出来なくなる時がきます。電動化は別として、手動で滑車を使った方法は現実可能かな、なんて考えてしまいました。添えマストを使って一段ずつ引き上げるようにするのですが、また考える楽しみが出てきました。
 
私は昔から考えては造り、作っては壊して、と言う楽しみに浸っていたものですから、子供の頃の虫がまた騒ぎ出したようです。気に入るまで手を加えていると際限がなくなりそうですので用心用心。 ここまで書いてから、ケルンに住んでいる友人に話しましたら、フランクフルトの近くにアマチュア用マストを作っている会社があるから聞いてみたらとのこと。早速Googleで検索してその会社を見つけました。 いろんなものがありますね http://www.frick-teleskopmaste.de/d_index.htm このWebの中に三脚(Stativ)と言うのがあって、私には最適なような気がします。残念ながらこのWebはドイツ語です。いずれれこれを入手して後日レポートしましょう。
 
SteppIRは妥協したアンテナと言うが、 SteppIRの取り扱い説明書の3ページ目には「Why Compromise?」として発明者のMike (K7IR)が特別に書いています。 私の知る八木宇田型アンテナは、一つの周波数で最高の性能を出すには給電ケーブルの整合は言うに及ばず、エレメントの長さと、エレメントの間隔が重要な要素となってきます。
 
しかし、この間隔を固定して可変長エレメントと広帯域マッチングトランスを持つこのSteppIRは、確かにCompromise Antennaでしょう。広帯域マッチングトランスは確かに机上でも設計製作が出来るかも知れません。またエレメント長、それも Drivenelement とか Directorelement を同時にEHUと称される筐体に組み込まれたステップモーターをコントローラで一気に希望する周波数に合わせてしまう「技」には感心させられました。
 
私の2エレメントSteppIRでは通常放射器(Driven)と導波器(Director)を持っていますが、180度ビームの方向を変えることによってDirectorがRefrector即ち反射器となります。言い換えれば、ロングパス(LP)とショートパス(SP)を即座に変えることが出来るのです。と言うことはDrivenの長さを変えずにDirectorだったエレメントを誘導性成分から(同調周波数の位相が進む)容量性成分(位相が遅れる)にしただけですが、Mikeがこのアイデアを応用したのには、また感心させえられました。この妙技はSteppIRだけが成せるものでしょう。
 
また、自分なりの解析ですが、実際に指向性を測定した訳ではないのですが、2つのエレメントの間隔が一定ですのでマニュアルに書いてある様な綺麗なビームにはならないと思われます。私の経験から20mバンドではエレメントの間隔が0.07λしかなくビームの半値幅は±45度程度で、10mバンドでは0.15λあるのでは±30度程度と思われます。これから判るように、高い方の周波数では利得が取れるが周波数が低くなるに従って、アンテナ利得が少なくF/B比が悪くなることも知っておくべきです。これがMikeの言う Compromise (妥協)なのでしょう。
 
数々のWebにSteppIRの経験談が掲載されていて、どのアマチュアバンドでもSWRは1.0だったと書かれていますが本当でしょうか。組みあがった私のSteppIRを地上3mくらいに上げてクラニシ製510BブリッジでSWRを測定しましたが、どこの周波数に行っても1.3位いで、先ずは私の期待に答えてくれました。私にはこのSWR値で充分満足できています。このアンテナは世界中で使われていることと、SteppIRアンテナから飛んでくるJAのシグナルは強力であることが証明するように、良く飛ぶアンテナと言い得るかも知れません。
 
2 element Yagi Field Results
BAND
Gain dBd
F/B dB
20m
4.2
18
17m
4.2
19
15m
4.1
14
12m
4.0
14
10m
3.8
10
6m
2.6
15







SteppIR Antenna Systems Products より抜粋
SteppIRアンテナにはボタン一つでLPとSPを切り替える機能がついていることは先に書きました。ある朝15mバンドをワッチしていたらJAのシグナルが58−59で入感していました。この機会にとばかりテストをしてみましたら、Sにして3つ違いました。

ショートパスでSが9だったものがLPに切り替えると6まで下がったのです。と言うことはF/B比が大雑把に見て15dB以上あったと言うことに他成りません。ただしし、RXに付いているSメータは実際のdB表示の受信レベルとSの値が一致しませんので凡その数値しかいえませんが、それにしてもSにして3つも違うことに驚かされました。

JAIGネットの時、JAからのシグナルを受信して見ましたが、Sメータが全く振れないシグナルも、R5で浮いて受信できたのは、SteppIRの性能だったのでしょうか。それともRXの感度がよかったのでしょうか。
 
私の住んでいるところには、ミュンヘンの市内といっても住宅地なので雑音障害が無い環境が幸いしていたのでしょうか。JAからのシグナルは、100WにGPアンテナか高層マンションの窓際に出したホイップ・アンテナのようでした。因みに私のリグはIcom IC-7600です。 本来ならば、私の電波を受信してもらいLPとSPを切り替えてレポートを送ってもらうとよかったのですが、コンディションが長く続きしませんでしたので、それは次回試みることにしました。
 
ベリリウム銅のテープがエレメントの中でマイクロチップ制御でモーターを回して伸縮させ自動的にどのバンド、周波数でもSWRを1にする
(SteppIR社のカタログより転載)
 
RX(受信部)を短波放送受信にしてアンテナを同調させてみました。コントローラーで周波数を可変させ同調の取れていない周波数ではS値が低くかったのですが、同調点ではS9まで急に上がって行きます。そして、その同調点から離れると次第にSが下がって行きます。当然お話ですが、その様な変化を追いかけることは、今までのアンテナでは経験できませんでした。そしてそのカーブを取ればアンテナのQが計算できるはずです。先に私は室内にループアンテナを持っていることを書きました。これは知られているようにHi-Qアンテナですから、これを使うと同調点が非常にシャープで離調するとほとんど聞えなくなります。SteppIRと比較してみると面白い遊びができます。楽しみが一つ増えました。
 

使う側に問題があるのか この頃の電気製品は1個又は複数のマイコンによって制御されていて、問題が発生した場合はリセットしてください、なんて取扱説明書に書いてあります。今回もその例に洩れずSteppIRもコントローラーによってバンドを制御できるようになっています。先に、私は組み上げた直後SWRを測定したら1.3くらいだったと書きました。その後アンテナの代りにダミーロードをつけて、あちこちの押しボタン式のスイッチを押しながらテストをしていたら、どうやらやってはいけない操作をしてしまったようでした。

 
アンテナを繋いだらSWRがとても高く同調点が見つからなくなったのです。どうしても良くならないので、リセットすることを思い出し、SteppIRに付いてきた説明書を読みながら初期状態、即ちデフォルト(初期値)にしました。その前にエレメントを巻き取って最短の状態(これをRetract=取り消す、と言います)にしておきました。これで一応マッチングの問題は解決しましたが、LP/SPを切り替えた時や双方向指向性にした時では、SWR値が違ってくるのです。これは私のアンテナがいわゆる自由空間に置かれた物ではなく、高々地上6mくらいでは対地の影響があったのかも知れません。慣れるまでに時間がかかると言うことなのでしょうか。
 

W(米国)の友人が、数年前に買って倉庫に眠っていたSteppIRの3エレメントで40mバンドから10mバンドまでのタイプをやっと組み上げることが出来たと知らせてきました。彼の場合は大型クランクアップタワーが広大な庭の真ん中に立てることが出来たので、狭い私のようなところと違って悠々と組み上げたことでしょう。

筆者の壱岐邦彦さん(独国ミュンヘン在住)、
JAIG世話人、DF2CW/JA7HM

そして彼は、いつもフルサイズ・アンテナとして働く可変長アンテナであるから性能が他のアンテナより良いと言っています。 SteppIRを賞賛する彼の言葉は誰もが持つ最初の印象でしょう。しかし疑問に思うこともあります。短波用で高性能を追求すれば、周波数によってエレメントだけでなく、ブーム長も変化させるべきでしょう。

もう一つの問題点は、稼動部分があると言うことです。稼動部分があるとトラブルの原因になりやすいことに他なりません。私のアンテナに対する持論は、トラップのような集中定数の入っていないアンテナ、機械的な部分が入っていないアンテナ、広帯域性能を持ったアンテナ、そして周波数にあった空間を占める割合の大きいアンテナです。

そこで求められる短波用アンテナは何かを考える時浮かび上がってくるのは、虫明先生の発明による「自己補対型アンテナ*でしょう。 これは対数周期(ログペリ)アンテナという商品名で売り出されています。短波用の高性能アンテナとしては、私の記憶ではこれ以外に無いように思えます。稼動部分の無い固定エレメントの広帯域アンテナですからアマチュア用には最適です。

しかし手の届く価格で実用化されるでしょうか。ドイツでもそこここに見られるプロ用、軍用のこのログペリアンテナを見ては、いずれアマチュア用にも作られる日が来るかな、それは次世代のハムたちが経験することかな、等と思いながらこの項を終ります。

 

 

参考文献】 SteppIR Antenna Systems (Yagi Dipole Vertical)
 

* 自己補対型アンテナ(self complement):
もともと平面導体で構成され、その補対構造(導体のある部分とない部分を入れ換えた構造)がもとの構造と一 致する。この原理を応用したアン テナが対数周期アンテナである。 いずれの構造も原理的に無限の大きさが必要であり、有限大で打ち切ると下限周波数が決定される他、周波数によらずインピーダンスが一定になる。この原理は八木・宇田アンテナの発明者、八木秀次、宇田新太郎の直弟子・虫明康人氏(工学博士)の発明である。

  
DF2CW/JA7HM
 
QTC-JAPAN.COM 2010.03.02
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