マルチバンドモービルアンテナ by Hideo Ono, JA1BU
 
     
 
ことの始まり 

「えっ、ホントかよ」。「7MHz〜430MHzバンド高能率モービルアンテナ」の謳い文句を見てタヌキは思いました。専らウマから声を出すタヌキは、必要に迫られてマルチバンドアンテナにチャレンジして来ましたが、3バンド共用でさえうまくいかず苦労しています。

バーチャルリアリティやTVゲームや、まるで月旅行して来たような映画まで作って「化かし方」の腕をメキメキと上げている人間様のやること、こんなに多くのバンドで使えるアンテナなんてマユツバモノです。  

とかくするうちに、あるアンテナについて「全然マッチングがとれない」「うまく働かない」「コイルが焼けた」などの声が世間で聞こえ始めました。しかしメーカーさんもそれなりに開発して発売したはずですし、うまく使っている人もいます。そこで「ホントはどうなのか」を、隣村のタコヤキヤこと JA1JJV の助けを借りて、真面目に検証してみることにしました。

2方式のアンテナ


マルチバンドアンテナを考えるとき、おおまかに言って二つの方式があります。一つは「それぞれのバンドに合ったアンテナを束ねる」電気的な方式で、他の一つは「バンドに合わせてエレメントの寸法を変える」機械的な方式です。今般タヌキが触ったのは、前者方式の DIAMOND HV‐7*です。
* HV-7は生産終了。後継アンテナはHV7CX(¥18,690+税)

クルマへの取り付け


タヌキの検証結果が一般に活用されるためには、クルマもアンテナの取り付け方も特殊であってなりません。そこでクルマはタヌキウマのマークUハードトップ、取り付け場所はトランクにしました。

 
     
 
1) アンテナの概要
50MHz、144MHz、435MHzの各バンドは常時、それに加えて7MHz、14MHz(オプション)、18MHz(オプション)、21MHz、28MHzのバンドのうち2バンドを使えると言うアンテナです。  先ず実装して、タヌキが特に関心を持っているHFバンドで電気的特性を測ってみたところ、7MHz、14MHz、21MHz、28MHzの各アンテナのVSWR最小となる周波数は6.6MHz、13.2MHz、19.3MHz、24.5MHzで、大きくずれていることがわかりました。
 
図1 HV-7 アンテナの構成と電流の乗り方の概念
 
そこで真面目に調整することにして改めて観察すると、このアンテナは図1に示す構成の様です。下の2段が430MHzバンドのコリニアアレーで、同時に144MHzバンドの1/2波長ダイポール、そして50MHzバンドの1/4波長アンテナになり、その上に7MHzバンド、21MHzバンド、14MHzバンド(オプション)、18MHzバンド(オプション)の短縮エレメントが付いて1/4波長アンテナになると推定されます。

PLコイル部(PLはフェーズラインの略?)はコリニアの位相反転部で、50MHzローディング部は50MHzバンドと144MHzバンドのトラップでしょう。430MHzバンドと144MHzバンドは給電部がハイインピーダンスになるのでマッチング部が必要です。  
 
ここまで解りましたので枚数4ページの取説(取扱説明書)の「調整方法」に従い、先ずは50MHz、144MHz、430MHzの各バンドの調整です。ただし430MHzバンドはマウントの大きさやメータまでのケーブルの長さを考えると正確な値は求められそうもありませんから諦めることにしました。
 
2) 144MHzバンド
ローディングエレメントの構成を変えて電気的特性の変化を測りましたが、VSWR最小となる周波数は149MHz一定で、インピーダンス特性も変わりませんでした(図2)。従ってこのアンテナは広帯域であると判断され、調整箇所も無いので、他のバンドを先に調整することにしました。これが終わってから測定した詳細特性から、VSWRは少々高いがバンド全域にわたり安定であると結論されました(図3、図4)。

図2
図3
図4
 
3) 50MHzバンド
同様なことをやったところ、上に付くエレメントを変えるとVSWRが最小になる周波数が大きく変化しました(図5)。そして、50MHz ローディング部のみの場合(図6)、28MHzコイルの場合(図7)、21MHzコイルの場合(図8)、7MHzと21MHzコイルを付けた場合(図9)の特性はそれぞれかなり違いが出ました。特に図9の「7MHz+21MHz+50MHz+144MHz+435MHz」の組合わせは、使う局が多いと思われるのに特性が良くないので気になります。

 

図5
図6
図7
図8
図9
 
4) HFバンドの調整
いよいよHFバンドです。取扱説明書の「ローディングコイルのエレメントを切りつめて調整する」と言う指示に従いエレメントを切って行きました。最終的に切りつめた長さは7MHzバンド51.6→41.0mm、14MHzバンド9.8→6.3mm、21MHzバンド19.3→13.5mm、28MHzバンド19.1→8.4mmでした。こんなにずれていてはアマチュアバンドのリグしか持たない人には寸法の見当付けが困難で、投げ出す人も出るでしょう。  

ステンレスエレメントは結構固くて金鋸では切りにくいので、なるべくドンピシャリと行きたいところですが、切りすぎたら一巻の終わりですから怖くて思い切っては切れません。 取説には「別に用意した銅線で見当をつけてからエレメントを切る」ように書いてありますが、お誂え向きの銅線が簡単に手に入るアマチュアばかりではありません(その様な環境にあれば買わないで自作するかも)。

このアンテナを丹念に調整している JS1PPT は「エレメントは1mm以下の精度で追い込まなければならない、またエレメントの頭の放電防止金具が相当に効いて銅線と実物が合わない」とレポートしています。そこでタヌキの提案ですが、調整用銅線を同梱して貰えないでしょうか。コストアップはわずかなものと思いますが、買ったアマチュアは大助かりでしょう。
図10
脇道に逸れましたが短縮係数は7MHzバンドで43kHz/cm、14MHzバンドで250kHz/cm、21MHzバンドで280kHz/cm、28MHzバンドで330kHz/cmで、カタログ値のそれぞれ40、190、290、400にだいたい合っていました(例。図10)。  

さて、この種の形態のアンテナはひとつのバンドをいじると他のバンドに波及します。この辺をチェックしてみました。以下のグラフで上段欄外の ● 印はバンドエッジを示します。また、リアクタンスは絶対値で示されていますが、本当は周波数の上昇に伴ってマイナスからプラスに転じ、途中にゼロとなるところがあります。
 
5) 7MHzバンド
VSWRは良く落ち、7MHzコイルだけでも(図11)、これに21MHzコイルを追加しても(図12)特性はほとんど変わらず、まずはOKです。帯域幅が狭い(VSWR=2以下は40kHzも無い)のは仕方ないでしょう。コイルの場所を入れ替えると影響が出ました(図13)が、このようなコイルの付け方は普通しないはずですから問題ないでしょう。ただしこのバンドは大型モービルが多くQRMも激しいのでこのアンテナでどの程度通用するかは判りません。
図11
図12
図13
 
6) 14MHzバンド
このバンドはモービルが少ないので、このバンドのコイルを付けた特性をとるだけにしました(図14)。
VSWRはほとんど1.0に落ち、OKです。
図14
 
7) 21MHzバンド
このバンドは利用者が多いのでいくつかのケースを想定してデータをとりました。先ず21MHzコイルのみを付けた場合で、21、50、144、435MHzの各バンドが運用できます。21MHzコイルを素直に上に向けて付けた場合(図15)、高さ制限を想定して横向きに付けた場合(図16)とも違いはほとんど無くOKです。次に7MHzを増設したり(図17)、横付けエレメントを前向きにしたり(図18)してみましたが特別な影響はありませんでした。
図15
図16
図17
図18
 
8) 28MHzバンド
このバンドのモービルも多く、タヌキもここに定住して居ます。このバンドではローディングエレメントの影響があり、28MHzコイルだけの場合(図19)、7MHzコイルを上に付けた場合(図20)、横に付けた場合(図21)、21MHzコイルを上に付けた場合(図22)、横に付けた場合(図23)ではそれぞれ特性が変化しますので、滅多に使わないバンドでもコイルを付けて置かなければならないことが解りました。
図19
図20
図21
図22
 
9) 実用結果
実用テストはあまりやっていませんが、タヌキの定住する28MHzバンドモービルでは実用になりました。また、JS1PPT は固定局で使用して7MHzバンド、21MHzバンドの2〜5W位で海外ともQSOしています。
 
10) 総括
このHV‐7はしっかりと調整すればコストパフォーマンス的に優れたアンテナになります。しかし飼い慣らすのが難しいアンテナで、リグのオートチューナで VSWR が下がればマッチングがとれたと思う程度の知識では使いこなせないでしょう。  

このアンテナは「キット」と解釈するのが適切です。いっそのこと、バンド下端で VSWR 最小になるくらいにエレメント長を揃え、先述した調整用の銅線を入れ、もう少し親切に調整手順を書いた取説を入れて、セミキットとして売ったらどうでしょうか。 取扱説明書は注意点をいろいろと書くよりも、購入者の視点で調整手順を詳しく書くべきです。また「特長」として「HFバンドのエレメントは出荷時は長めなので最良点はアマチュアバンドよりも低い周波数にある」と書いてありますが、これは特長ではないでしょう。

そして「高能率モービルアンテナ」とは誇大過ぎます。430MHzバンドは2段コリニアで144MHzバンドは半波長で確かにダイポールよりも利得がありますが、他のバンドも能率が良いわけではありませんし、却ってローディングコイルや素子複数化での損失があるはずです。あるいは高能率とはコストパフォーマンスが優れていると言う意味でしょうか。  

なお、ローディングコイルが単純なネジ込みなので走行中に緩んで紛失する恐れがあります。根本をテープで巻くとかエレメントを紐でつないでおくなど、なんらかのロック手段が必要です。
 
 
■ タヌキ "MFJ-259B"をしゃぶる by JA1BU 
 
28.640MHzモービルハムの活動はこちら
【モービルハム28.640解散後 10年目特別記念集会】
日本の宇宙開発の草分け的な存在で、 NECに於いて東大宇宙研、
宇宙開発事業団等の初期の国産衛星の開発に大きく貢献された。
技術士(航空・宇宙)、元JARL技術研究所長
 
 
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